フリーランスの単価の決め方|時給換算・目標年収からの逆算・手数料込みの下限価格
結論から言うと、単価は「相場」から決める前に、「自分が最低いくら必要か」を計算してから決めるのが安全です。必要な時給は、目標の手取りに税金・社会保険と経費を足して売上を出し、「請求できる時間」で割ると求められます。
この記事の計算例では、月の手取り30万円を目指す場合、請求できる時間あたり約4,309円が必要になります。会社員の感覚で「30万円÷160時間」と考えた時給とは、2倍以上の差が出ることがあります。計算の考え方と、手数料・相場・実績に合わせた調整の仕方を、順に整理します。
単価は「相場」の前に「自分の下限」を決める
単価の相談でよく聞くのは、「みんなはいくらでやっているのか」という質問です。相場を知ることは大切ですが、相場だけで決めると、受注はできても手元にお金が残らない状態になりがちです。先に決めるべきなのは、これ以下では続けられない、という自分の下限です。
下限が決まっていれば、相場より高い・低いと分かったときに、次の行動を選べます。相場が下限を上回るなら、相場の範囲で価格を決めればよく、下回るなら、作業時間を減らす、範囲を絞る、別の客層を探す、といった打ち手を検討できます。
この記事で使う計算の考え方は、既存の適正単価・時給換算ツールと同じです。手順は次の4段階です。
- 目標の手取りから、税金・社会保険を戻して「税引前の利益」を出す。
- 経費を足して「必要な売上」を出す。
- 稼働日数と、請求できる時間の割合から「年間の請求可能時間」を出す。
- 必要な売上を請求可能時間で割り、必要時給を出す。
目標の手取りから必要時給を逆算する
計算例:月の手取り30万円を目指す場合
次の条件で計算します。数字は例で、自分の条件に置き換えて使ってください。
| 条件 | 数値 |
|---|---|
| 希望する月の手取り | 300,000円 |
| 月の経費 | 30,000円 |
| 税金・社会保険の負担率(経費を引いた利益に対して) | 20% |
| 週の稼働日数 | 5日 |
| 年間の休み日数(祝日・休暇・体調不良など) | 25日 |
| 1日の作業時間 | 8時間 |
| 請求できる時間の割合 | 60% |
| 計算の段階 | 式 | 結果 |
|---|---|---|
| 年間の手取り | 300,000円 × 12か月 | 3,600,000円 |
| 税引前の利益 | 3,600,000円 ÷ (1 − 0.20) | 4,500,000円 |
| 年間の経費 | 30,000円 × 12か月 | 360,000円 |
| 必要な年間売上 | 4,500,000円 + 360,000円 | 4,860,000円 |
| 年間の稼働日数 | 5日 × 52週 − 25日 | 235日 |
| 年間の請求可能時間 | 235日 × 8時間 × 60% | 1,128時間 |
| 必要時給 | 4,860,000円 ÷ 1,128時間 | 約4,309円 |
| 稼働日あたりの必要売上 | 4,860,000円 ÷ 235日 | 約20,681円 |
この例では、月の必要売上は405,000円(4,860,000円 ÷ 12)です。手取り30万円を目指すと、売上は約40.5万円必要で、請求できる時間あたりでは約4,309円になります。
目標の手取りを変えるとどうなるか
ほかの条件を上の例のまま固定して、希望の手取りだけを変えた場合の必要時給です。
| 月の手取り | 必要な年間売上 | 必要時給(請求できる時間あたり) |
|---|---|---|
| 200,000円 | 3,360,000円 | 約2,979円 |
| 300,000円 | 4,860,000円 | 約4,309円 |
| 400,000円 | 6,360,000円 | 約5,638円 |
| 500,000円 | 7,860,000円 | 約6,968円 |
手取りが100,000円増えるごとに、必要時給はおよそ1,330円ずつ上がります。数字が大きく見えても、ここまで読んで「そんなに取れない」と感じたら、その感覚は、次の章の「請求できる時間」で説明する部分が原因であることが多いです。
稼働時間と非稼働時間:請求できる時間の割合が最大の変数
フリーランスの時給計算で、最も結果を左右するのは「請求できる時間の割合」です。8時間働いても、そのうち請求先のある作業は一部にとどまります。次のような時間は、お金になりません。
- 営業、提案文の作成、見積もり、打ち合わせの調整
- 請求書の発行、入金確認、帳簿づけなどの事務
- 学習、スキルアップ、道具の整備
- 案件が途切れる待機時間、修正やクレームの対応
先ほどの例で時間の内訳を見ると、年間の稼働時間は235日 × 8時間で1,880時間、そのうち請求できるのは60%の1,128時間、請求できない時間は752時間です。この752時間も、事業を続けるために必要な時間です。
請求できる時間の割合を変えると、必要時給は次のように動きます(他の条件は前章の例と同じ、必要な年間売上は4,860,000円)。
| 請求できる時間の割合 | 年間の請求可能時間 | 必要時給 |
|---|---|---|
| 50% | 940時間 | 約5,170円 |
| 60% | 1,128時間 | 約4,309円 |
| 70% | 1,316時間 | 約3,693円 |
| 100%(理想値) | 1,880時間 | 約2,585円 |
100%という数字は現実的ではありませんが、「割合が低いほど時給を高くしないと成り立たない」ことは、この表からはっきり分かります。立ち上げ期は営業や修正に時間がかかるため、50%程度で見積もると安全です。直近1か月の作業ログから、実際の割合を確認するのがおすすめです。時間の記録にはタイムトラッカーが使えます。
経費・税金・社会保険を単価に織り込む
手取りから逆算するときの「負担率」は、次の3つを含みます。
- 所得税・住民税:利益が増えるほど、税率が上がる仕組みです。
- 社会保険料:フリーランスは国民健康保険・国民年金が中心です。自治体や所得で金額が変わります。
- 消費税:課税事業者の場合は、売上に含まれる消費税の一部を納める必要があります(制度はインボイス登録の記事参照)。
この記事の計算例で使った負担率20%は、既存ツールが示す目安(副業なら10〜20%、専業なら20〜30%程度)にそろえた置き値です。実際の負担率は人によって異なり、所得や家族構成、自治体で変わります。正確に知りたい場合は、税金・手取り概算ツールで試算した負担率を入れてください。
経費の見落としに注意
経費は「毎月確実にかかるもの」だけでなく、年に数回の出費も月割りに入れます。たとえば、次のようなものです。
- 通信費、ソフトやクラウドサービスの利用料
- パソコンや周辺機器の買い替え(年額を12で割って月割り)
- 自宅を仕事場にする場合の家賃・光熱費の按分
- 会計ソフト、セミナー、書籍、交通費
何が経費になるかは経費チェックで確認できます。また、納税の資金は売上のなかから別に取り置く必要があります。取り置く額の目安は納税積立ツールで試算できます。
プラットフォーム手数料込みの下限価格
ココナラやクラウドソーシングで受注する場合、販売価格から手数料が引かれた額が手元に入ります。必要時給は「入金ベース」で出しているため、販売価格に直すには手数料を割り戻します。
式は、下限価格 = (作業時間 × 必要時給 + 案件の経費) ÷ (1 − 手数料率) です。既存ツールの最低価格の計算と同じ式で、小数点以下は切り上げます。
ココナラの出品者の販売手数料は、公式ヘルプで税込22%と案内されています(既存のココナラ手数料の記事で詳しく解説しています。手数料は改定されることがあるため、公式の最新情報を確認してください)。作業時間10時間、案件の経費0円、必要時給4,308.51円(先ほどの30万円の例)で計算します。
| 契約の形 | 手数料率 | 式 | 下限価格 |
|---|---|---|---|
| 直接契約 | 0% | 10時間 × 4,308.51円 ÷ 1.00 | 43,086円 |
| ココナラ経由 | 22% | 10時間 × 4,308.51円 ÷ 0.78 | 55,238円 |
同じ作業でも、手数料22%の場合は、直接契約より約12,152円(55,238円 − 43,086円)高く出品しないと、同じ入金額になりません。手数料率を引いた額は、値付けの前提として最初から織り込むのが基本です。
この下限を満たせない価格だったらどうなるか
同じ10時間の案件を、ココナラで価格を決めたときの実質時給(入金ベース)です。式は、価格 × (1 − 0.22) ÷ 10時間です。
| 販売価格 | 手数料引き後の入金 | 実質時給 | 必要時給4,309円に対する割合 |
|---|---|---|---|
| 25,000円 | 19,500円 | 1,950円 | 約45% |
| 30,000円 | 23,400円 | 2,340円 | 約54% |
| 40,000円 | 31,200円 | 3,120円 | 約72% |
| 55,238円 | 43,086円 | 約4,309円 | 100% |
既存ツールの判定では、実質時給が目標の80%を切ると「見直しが必要」の目安です。25,000円、30,000円、40,000円のいずれも、この条件の下では目標を下回ります。ただし、ここで出るのは入金ベースの時給で、税金・社会保険料は必要売上の計算にすでに含めてあるため、二重に引く必要はありません。
相場との合わせ方:下限・相場・上限を並べて考える
下限が決まったら、相場と並べます。相場の見方は、1つの数字にこだわらず、複数の出品・募集の価格帯を見ることです。同じジャンルでも、作業範囲・納期・実績によって価格は大きく違います。
調べるときは、次の点を意識してください。
- 同じ作業範囲(修正回数、納品物の数、納期)で比較する。
- 売れている出品(評価数が多いもの)と、売れていない出品を分けて見る。
- 安い案件は「作業時間も短い」のか「単純に安い」のかを確認する。
相場との関係は、次の3パターンに分けて対応を考えます。
| 状況 | 考え方 |
|---|---|
| 相場が自分の下限より高い | 下限ではなく、相場の中で実績に見合う位置に価格を置く。下限は「これ以下は受けない」という防衛線として使う |
| 相場が下限と同程度 | 価格は相場に合わせてよい。ただし、作業時間の短縮や範囲の明確化で、利益を守る |
| 相場が下限より低い | 作業時間を減らせるか、範囲を絞れるか、手数料のない直接契約や別の客層に移れるかを検討する。下限を割る価格で受け続けるのは避ける |
相場が下限を下回る場合は、実際に1件ずつ作業時間を測り直すのも有効です。自分の想定より早く終わるなら、実質時給は計算より高くなります。文字単価や件単価で見る場合は単価換算ツールが使えます。
実績に応じて段階的に単価を上げる
実績のない最初から、必要時給をまるごと価格に乗せるのは難しいこともあります。そのときは、下限は動かさず、いつまでにそこへ届くかの道筋を段階で決める方法があります。次は、ココナラ経由(手数料22%)で10時間の案件を想定した、入金ベースの時給ごとの価格の例です。時給の水準は考え方の例で、相場を示すものではありません。
| 段階 | 狙う入金ベース時給 | 10時間の案件の販売価格 |
|---|---|---|
| 立ち上げ期(実績を作る) | 1,500円 | 19,231円 |
| 実績が少しある | 2,000円 | 25,642円 |
| 評価が安定してきた | 3,000円 | 38,462円 |
| リピートや紹介が増えた | 4,000円 | 51,283円 |
| 下限(目標の手取りに到達) | 約4,309円 | 55,238円 |
最初の段階の価格は、必要時給を大きく下回ります。その差額は「実績を買う費用」と割り切り、期間と件数を区切って続けるのがポイントです。「実績が5件たまったら次の段階へ」のように、上げる基準を事前に決めておくと、安いまま固定される事態を避けられます。
段階を上げるサイン
- 依頼が断りきれないほど入る、または納期に余裕がなくなってきた。
- 高評価のレビューや、リピート・紹介が増えてきた。
- 同じ作業を以前より短い時間で終えられる。
- ポートフォリオに載せられる、同種の成果物がそろってきた。
既存の顧客に値上げを伝える手順は値上げシミュレーターで試算できます。新規の出品は価格を上げやすく、継続案件は伝え方に配慮が必要です。月の売上目標から必要な件数を逆算したいときは、売上目標の逆算ツールが役立ちます。
補足:副業の場合の計算例
平日の夜や週末だけ使う副業でも、同じ式で計算できます。例として、週2日・1日5時間稼働、月の手取り5万円を目指す場合です。
| 条件・計算 | 値 |
|---|---|
| 月の手取り / 月の経費 | 50,000円 / 10,000円 |
| 税金・社会保険の負担率 | 15% |
| 週の稼働日数 / 年間の休み日数 | 2日 / 10日 |
| 1日の作業時間 / 請求できる時間の割合 | 5時間 / 60% |
| 税引前の利益 | 600,000円 ÷ 0.85 = 約705,882円 |
| 必要な年間売上 | 705,882円 + 120,000円 = 約825,882円 |
| 年間の稼働日数 | 2日 × 52週 − 10日 = 94日 |
| 年間の請求可能時間 | 94日 × 5時間 × 60% = 282時間 |
| 必要時給(入金ベース) | 825,882円 ÷ 282時間 = 約2,929円 |
| ココナラ経由(手数料22%)の販売ベース時給 | 2,929円 ÷ 0.78 = 約3,755円 |
副業の場合は、本業の給与と所得が合算されるため、実際の税の負担は人によって変わります。この例の15%も置き値です。会社員の副業に特有の注意(確定申告や開業届)は、開業届の記事も参考にしてください。
まとめ:まず何をするか
- 目標の手取りを決める:月いくら欲しいかを1つの数字にします。
- 請求できる時間の割合を、実績で確認する:直近1か月の作業ログから出します。分からなければ50〜60%で置きます。
- 必要時給を計算する:適正単価・時給換算ツールに条件を入れると、今回の表と同じ手順で出ます。
- 手数料込みの下限価格を出す:案件ごとに、作業時間 × 必要時給 ÷ (1 − 手数料率) で計算します。
- 相場と並べ、段階を決める:下限を防衛線にして、実績に応じて価格を上げる基準を先に決めておきます。
- 定期的に見直す:作業時間・経費・手数料率は変わります。半年に1回は、数字を入れ直してください。
この記事の計算は、条件を単純化した目安です。税金や社会保険料は、所得や自治体、家族構成によって変わります。実際の判断では、最新の公式情報や専門家への相談もあわせて確認してください。