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継続案件・既存クライアントへの値上げの伝え方と例文

結論から言うと、継続案件の値上げは「契約の更新時や区切りのよいタイミングに、新単価・適用開始日・理由の3点を書面(メール)で、1〜3か月前を目安に伝える」のがいちばん角が立ちません。理由は、品質向上や業務範囲の拡大、コストの増加など、相手が事実として確認できるものを選びます。

値上げの通知期間や言い方に、法律で決まった型があるわけではありません。ただし、インボイス制度や取適法など、価格の話に関わる公的なルールはいくつかあります。この記事では、公正取引委員会・国税庁などの公表情報(2026年10月8日確認)を踏まえて、伝え方と注意点を整理します。法的助言ではなく一般的な情報です。

公開:2026-10-08|最終確認:2026-10-08|約7500字

値上げは「更新時に・書面で・理由つきで」伝えるのが基本

継続案件の値上げが難しいのは、金額の問題というより「言い出すタイミングと言い方」の問題だからです。長く付き合っているクライアントほど、今の単価が当たり前になっていて、突然の変更に身構えます。逆に言えば、準備さえしておけば、きちんと通るケースは少なくありません。

基本の型は次の4つです。

  • タイミング:契約更新、年度の切り替え、業務範囲が増えたとき、実績が出たときなど、区切りのよい時期に伝える。
  • 書面(メールなど)で:口頭だけにせず、新単価と適用開始日を文面で残す。後から「聞いていない」を防げる。
  • 理由を添える:感情ではなく、事実(実績、業務量、コスト)で説明する。
  • 相手の選択肢を残す:新単価で継続、範囲を調整して据え置き、時期をずらすなど、相手が選べる形にする。

値上げの目的は「今の利益を守ること」です。まず値上げシミュレーターで、何割の離脱まで許容できるかを確認してから伝えると、断られたときも冷静に判断できます。

いつ伝えるか:タイミングと事前通知期間の目安

伝えやすいタイミング

タイミング伝えやすい理由
契約の更新前条件を見直す自然な機会。更新しない選択肢も相手にあるため、早めの連絡が必須
年度の切り替え・予算編成の前相手の予算に組み込んでもらえる。法人は決算期や予算の時期を意識すると通りやすい
業務範囲が増えたとき「作業量が増えたので」という理由が客観的で、納得されやすい
成果が出たとき実績を示しやすい。数字(問い合わせ数、記事数、納期遵守率など)を添える
新規案件の見積もりのとき既存案件は据え置き、新規分だけ新単価にする方法は摩擦が小さい

逆に避けたいのは、納期直前や大きなトラブルの直後、相手の繁忙期の真っ只中です。話を聞いてもらえる余裕がない時期に伝えると、内容より時期への不満が先に立ちます。

事前通知は1〜3か月前が目安

値上げを何日前までに伝えなければならない、という決まりは、確認した範囲では見当たりませんでした。契約書に単価変更の手続き(たとえば「30日前までに書面で通知」など)が書かれている場合は、その定めに従います。定めがなければ、実務上の目安として次のように考えると無理がありません。

  • 月額・定期の案件:次の更新または次の請求サイクルの1〜3か月前。
  • 都度発注の案件:次回の見積もりから新単価を提示する(事前通知が不要なことも多い)。
  • 相手が法人で稟議・予算申請が必要:3か月前以上に余裕をもつ。

なお、すでに合意した単価を、期間の途中で一方的に変えることは、一般論としてできません。進行中の案件や、期間が決まっている契約は、現行の条件で完了させ、次の更新や次回発注から新単価にするのが基本です。

根拠の示し方と、値上げ幅の決め方

理由は多すぎても言い訳がましくなります。相手が事実として確認できるものを、2〜3個に絞って書きます。

1. 成果・実績で示す

「この1年で納品した記事が○本、修正の差し戻し率は○%、納期は全件守った」など、相手の側でも確認できる数字が効果的です。「頑張っています」より「結果が出ています」のほうが、相手は社内で説明しやすくなります。

2. 業務量や範囲の変化で示す

当初の契約より業務が増えているなら、それが最も通りやすい根拠です。たとえば、当初は「記事の執筆のみ」だったのが、今は構成案の作成、画像選定、入稿作業まで担当している、という場合です。増えた作業を箇条書きにして、1件あたりの作業時間がどう変わったかを添えます。時給換算ツールで、現在の実質時給を出しておくと説得力が増します。

3. コストの増加で示す

ツールの利用料、外注費、経費、プラットフォームの手数料など、自分が負担するコストの増加も根拠になります。ただし、物価や社会情勢を理由にするだけだと「それは自分も同じ」と受け取られやすく、単独では弱い理由です。具体的に何がいくら増えたのかを、可能な範囲で示します(詳しくは後述の「インボイス・手数料・物価を理由にするときの注意」を参照)。

避けたい理由:「生活が苦しいので」「他の人はもっと高いので」「忙しくなったので」。相手が検証できず、感情的な交渉になりがちです。

幅の決め方:まず5〜10%、利益ベースで確認する

値上げの幅は、市場や案件の性質によって大きく変わります。当サイトの値上げシミュレーターでは、まず5〜10%程度から始め、必要なら時期をおいて再度上げる方法を目安にしています。急に大幅に上げるより、段階的に上げるほうが、相手も受け入れやすいためです。

金額の影響は、売上ではなく利益で考えるのがポイントです。たとえば、1件1万円の仕事を1.2万円に上げ(20%の値上げ)、プラットフォームの手数料が22%、1件あたりの変動費が2,000円だとします。

現行の1件の利益: 10,000円×(1−0.22)−2,000円 = 5,800円
値上げ後の1件の利益: 12,000円×(1−0.22)−2,000円 = 7,360円
同じ利益を保つのに必要な件数: 5,800 ÷ 7,360 ≒ 79%(約21%の離脱まで許容できる)

この計算は、手数料や変動費の有無で結果が変わります。自分の条件で試算するには、上記のツールに入力してください。直接契約で手数料がない場合は、手数料率を0%にして試算します。

例文:そのまま使える3パターン

文面は感謝 → 事実 → 理由 → 新単価と開始日 → 相手の選択肢の順に組み立てると、角が立ちにくくなります。以下は一例です。[ ]の部分は自分の状況に置き換えてください。ほかの場面の文例は取引メッセージの文例ジェネレーターでも作れます。

パターン1:実績・業務量を理由にする(基本形)

[担当者名]様
いつもお世話になっております。[名前]です。
[期間]にわたりご依頼をいただき、ありがとうございます。
当初は[記事の執筆のみ]でお受けしておりましたが、現在は[構成案の作成・画像の選定・入稿作業]まで担当しており、1件あたりの作業時間が当初の約[1.5]倍になっております。
つきましては、[2027年1月1日]ご依頼分より、1件あたりの単価を[8,000円]から[9,000円](税抜)に改定させていただきたく、ご相談いたします。
現在進行中の案件は、現行の単価で完了いたします。
ご検討のうえ、[11月末]までにご都合をお知らせいただけますと幸いです。ご不明な点があれば、お気軽にお申し付けください。

パターン2:コストの増加を理由にする

[担当者名]様
いつもありがとうございます。[名前]です。
[期間]にわたり、継続してご依頼をいただいており、感謝しております。
このたび、業務で利用している[ツール名]の利用料や[外注費]が上昇し、現行の単価では品質を維持した対応が難しくなってまいりました。
つきましては、[2027年1月]ご依頼分から、月額[100,000円]を[108,000円](税抜)に改定させていただけないでしょうか。
ご予算の都合がある場合は、対応範囲を[月○本→○本]に調整したうえで現行の金額を維持する方法もご用意できます。ご希望をお聞かせください。

パターン3:新規分から新単価にする(既存は据え置き)

[担当者名]様
お世話になっております。[名前]です。
今後の稼働の都合上、[2027年1月]以降の新規のご依頼については、新しい料金表(添付)に基づいてお見積もりさせていただくことにいたしました。
すでにお受けしている案件と、継続中の月次業務は、現行の条件のまま変わりません。
新規案件のご相談の際に、あらためてお見積もりをお出しします。引き続き、よろしくお願いいたします。

パターン3は、既存の取引に摩擦をほとんど生まない方法です。ただし、実質的には既存分の単価が上がらないので、利益の改善には時間がかかります。複数のクライアントを抱えているなら、新規と既存で段階的に切り替えていく使い方が現実的です。

断られた・交渉されたときの対応

断られても、関係が終わるとは限りません。想定される反応ごとに、対応の方向を整理します。

相手の反応対応の方向
「予算が厳しい」範囲を絞って現行金額を維持する案、段階的に引き上げる案(半年後に再改定など)を出す
「幅が大きすぎる」譲歩できる下限をあらかじめ決めておき、その範囲で幅を調整する。最初から交渉の余地を残しておく
「他の人はもっと安い」価格競争に乗らず、品質・納期・対応範囲など、自分の提供価値を整理して返す
返事が来ない期日を設けて再度連絡する。新単価の開始日までに合意がなければ、現行条件で期間満了にする選択肢も検討する
「今の金額が最後」と断られた現行条件を続けるか、契約を終了するかを、利益ベースで決める

断られたら、条件の調整案を出す

ご事情、承知いたしました。単価の改定が難しい場合、対応範囲を[画像選定と入稿作業を除く]形に調整し、現行の金額のまま継続する方法はいかがでしょうか。あるいは、[2027年4月]から段階的に改定する形でも構いません。

応じてもらえない場合に、自分で決める基準

据え置きを続けるか、離れるかは、感情ではなく数字で決めます。そのクライアントの案件は、時給換算でいくらか、他の案件に振り向けた場合の収入はいくらか、売上に占める割合はどれくらいか(1社依存になっていないか)を整理します。1社への依存が大きい場合は、離れる前に、新しい取引先の確保を並行して進めることをおすすめします。

公的なルールで確認できること

クライアントが値上げ要請に応じないこと自体は、直ちに違法とはなりません。ただし、取適法(下請法の改正法、令和8年1月1日施行)の適用対象の取引では、価格協議を求められたのに応じず、一方的に代金を決めることは違反になる、と公正取引委員会は案内しています。協議を明示的に拒否する場合、求めを無視する場合、協議を繰り返し先延ばしにする場合が例に挙がっています。

ただし、取適法が適用されるかどうかは、発注側の資本金や取引の内容など、個別の要件で決まります。フリーランス法の適用範囲(発注側が従業員を使用している、など)とも異なります。自分の取引が対象になるかは、公正取引委員会の資料で必ず確認してください。また、フリーランス法では、1か月以上の業務委託について、買いたたき(通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬の決定)などが禁止されています。値上げの話し合いが折り合わないとき、こうした制度の相談窓口を調べておくことも、選択肢のひとつです。

プラットフォーム経由と直接契約のちがい

同じ「値上げ」でも、取引の形によって手順が変わります。

項目プラットフォーム経由直接契約(継続案件)
価格の変更方法サービスの価格設定や見積もり画面で変更する。変更が既存の注文に及ぶかは、サイトごとに異なる契約書・発注書の更新、または個別の通知で変更する
相手への伝え方サービスページの価格変更で足りるケースが多い。リピーターには、メッセージで事前に伝えると丁寧メールなどで事前に通知し、更新時に合意を取る
手数料販売価格から差し引かれる(ココナラの通常サービスは22%、ビデオチャットは27.5%)原則なし(銀行振込の手数料などは別途)
交渉の余地購入者との個別交渉は、プラットフォームの規約の範囲内で行う自由度が高い分、条件を自分で整理する必要がある
決める根拠手取り(価格×(1−手数料率))から逆算する請求額=受け取り額に近い。消費税・源泉徴収の扱いも確認する

プラットフォームでの注意

プラットフォームの手数料は、価格だけでなく有料オプションなども対象になります。値上げ幅を決めるときは、手取りベースで考えてください。たとえば、ココナラの通常サービスで1万円の販売手数料は2,200円です(ココナラ公式ヘルプで確認)。手取りを1,000円増やしたいなら、価格は約1,282円(1,000÷0.78)上げる必要があります。詳しい計算は、ココナラの手数料と値付けの記事にまとめています。

また、プラットフォームの利用規約で、取引の直接化(サイト外への誘導)が制限されている場合があります。「値上げが通らないからサイト外で直接契約にしよう」と考える前に、必ず利用規約を確認してください。この点は、サイトごとに規約が異なり、個別には確認していません。

プラットフォームの継続案件は、どこで区切りを作るか

プラットフォーム上の取引には、契約更新のような区切りがないことがあります。その場合は、「新規のご依頼から」「○月以降のお見積もりから」と、自分で区切りを作って伝えます。常連のクライアントには、サイトの機能を使ったメッセージで、あらかじめ新しい価格を伝えておくと、受け入れてもらいやすくなります。

インボイス・手数料・物価を理由にするときの注意

インボイス登録を理由にする場合

免税事業者がインボイス発行事業者に登録すると、消費税の申告・納税が必要になります。この場合、「値上げ」ではなく「消費税分を別途請求する」形になります。ここは、混同すると相手との認識がずれやすい点です。

公正取引委員会などのQ&Aでは、次の点が示されています(2026年10月8日確認)。

  • 免税事業者が課税事業者に転換した後、新たに必要となる消費税分について、協議をせず価格を据え置くことは、優越的地位の濫用や取適法上の買いたたきに当たるおそれがある。
  • これまで消費税相当額を上乗せしていなかった免税事業者が課税事業者になった場合、発注側は新たに消費税相当額を上乗せして支払うことが相当とされている。
  • 免税事業者との取引では、「税抜」価格の意味について、双方に認識のずれがないよう注意が必要。

つまり、登録する場合には、「これまでの金額に消費税が含まれていたのか、含まれていなかったのか」を整理して、請求書の書き方を相手と確認しておく必要があります。登録の判断や手順はインボイス登録の記事、取引先とのやりとりはインボイス登録を求められたときの対応の記事にまとめています。

クライアントの負担は、経過措置で変わっている

免税事業者から仕入れた場合の経過措置は、国税庁のQ&Aによると、次のとおりです。

課税仕入れの時期控除できる割合(仕入税額相当額に対して)
令和5年10月1日〜令和8年9月30日80%
令和8年10月1日〜令和10年9月30日70%
令和10年10月1日〜令和12年9月30日50%
令和12年10月1日〜令和13年9月30日30%

2026年10月1日からは、控除できる割合が70%に変わっています。課税仕入れの時期は、役務の提供なら原則として役務の全部が完了した日で判断されます。たとえば、課税事業者のクライアントが免税事業者に税込110万円を支払った場合、仕入税額相当額は10万円で、控除できるのは70%の7万円、控除できない3万円がクライアントの負担です(クライアントが本則課税で、この経過措置が適用される場合の単純な試算です)。この負担を「値上げの根拠」として使うかどうかは、慎重に考えてください。クライアント側の事情を理由に、自分の単価を上げる交渉は、相手に「負担を押しつけられた」と受け取られやすいためです。

消費税の計算方法にも影響がある

2割特例は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間が対象です(個人事業者は令和8年分まで)。個人事業者の令和9年分・10年分には、3割特例が使えると国税庁が案内しています。登録後の納税額は、どの計算方式を選ぶかで大きく変わります。値上げ(または消費税分の請求)の幅を決める前に、自分の納税額を試算してください。比較は2割特例・3割特例・簡易課税の記事で整理しています。

手数料を理由にする場合

プラットフォームの手数料が改定された場合は、手取りの減少を価格に反映する根拠になります。ただし、相手には、手数料の仕組みが見えていないことが多いため、「手数料が上がったので値上げします」だけでは唐突に映ります。「サービスの維持・品質確保のため」と、相手にとってのメリットに言い換えて伝えると、受け入れられやすくなります。

物価・コストを理由にする場合

物価上昇は、一般的な背景としては使えますが、単独では弱い理由です。「自分の原価がいくら上がったか」を数字で示せる場合に限り、補助的な根拠として使うと効果的です。数字が出せないなら、実績や業務量の変化を前面に出してください。

この記事の限界・注意点

  • 値上げの通知期間(1〜3か月前)は、法令で定められた期間ではなく、実務上の目安です。契約書に定めがある場合は、その内容を優先してください。
  • 取適法・フリーランス法・独占禁止法が自分の取引に適用されるかは、発注側の規模、取引の内容、委託期間などで決まります。この記事では適用の有無を判断できません。公正取引委員会などの公式資料で確認し、迷う場合は相談窓口を利用してください。
  • インボイス・消費税の扱いは、課税事業者かどうか、計算方式、取引の時期によって異なります。個別の判断は税理士・税務署にご相談ください。
  • プラットフォームの価格変更の仕様や規約は、サイトごとに異なり、変更されることがあります。実際の操作は各サイトの最新のヘルプで確認してください。
  • この記事の例文は一般的なひな型です。契約内容や相手との関係に合わせて、自分の言葉に直してお使いください。

まとめ:まず何をするか

継続案件の値上げは、次の順序で進めると失敗が少なくなります。

  • 1. 現状を数字にする:クライアントごとの売上、作業時間、実質時給、手数料を整理する。
  • 2. 許容できる離脱率を確認する:値上げシミュレーターで、新単価と許容離脱率を試算する。
  • 3. 契約を確認する:単価変更の手続き、契約期間、更新日を、契約書・発注書で確認する。
  • 4. 理由を2〜3個選ぶ:実績、業務量の変化、具体的なコストの増加のうち、相手が確認できるものを選ぶ。
  • 5. 1〜3か月前に、書面で伝える:新単価、適用開始日、現行案件の扱い、相手の選択肢を、メールで明記する。
  • 6. 断られたときの下限を決めておく:条件調整、段階的な改定、現行条件の継続・終了を、あらかじめ数字で決めておく。

最初の一歩は、いちばん条件の悪いクライアントを1社選んで、現状の時給を計算することです。数字がわかれば、伝えるべき内容も、断られたときの判断基準も明確になります。

本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の税務・法律相談ではありません。制度は改正されることがあるため、実際の判断は国税庁などの公式情報や、税理士などの専門家にご確認ください。