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フリーランス新法とは?対象・発注者の義務・60日ルール・相談先を整理

結論から言うと、フリーランス新法は「従業員を使わず個人で(または1人会社で)仕事を受ける人」を、仕事を出す側の事業者から守る法律で、副業の会社員でも対象になりえます。発注者には、取引条件を書面やメールで明示すること、報酬を受領から60日以内の期日に払うこと、一定期間以上の取引では減額や買いたたきなどをしないことなどが義務づけられています。

ただし、すべての義務が全発注者・全取引に一律に適用されるわけではありません。発注者の規模や取引の期間で、適用される義務が変わります。この記事では、公正取引委員会・厚生労働省・フリーランス・トラブル110番の公表情報(2026年10月8日確認)をもとに、自分の取引が対象かどうかの見分け方と、困ったときの動き方をまとめます。法的助言ではなく一般的な解説です。

公開:2026-10-08|最終確認:2026-10-08|約6100字

フリーランス新法とは何か:目的と全体像

正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」で、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」とも呼ばれます(令和5年法律第25号)。2023年4月に成立し、2024年11月1日に施行されました。公正取引委員会の特設ページによると、目的は「個人が事業者として受託した業務に安定して従事できる環境を整えること」です。

この法律は、大きく2つの柱でできています。

  • 取引の適正化:取引条件の明示、報酬の支払期日、禁止行為など。主に公正取引委員会と中小企業庁が担当します。
  • 就業環境の整備:ハラスメント対策、育児・介護との両立への配慮、中途解除の事前予告など。主に厚生労働省が担当します。

つまり、お金や契約の問題と、働く環境の問題の両方をカバーする法律です。以前は、会社と下請け業者の取引には下請法がありましたが、個人で仕事を受ける人は、資本金などの要件で対象外になることが多くありました。新法は、その空白を埋める位置づけです。

誰が「フリーランス」として対象になるのか

受ける側:特定受託事業者

公正取引委員会のパンフレットでは、保護される側を「特定受託事業者」と呼び、次のように説明しています。

  • 個人で、従業員を使用しない人
  • 法人で、代表者以外に役員がおらず、かつ従業員を使用しない会社(いわゆる1人会社)

副業として業務を受託している会社員も、本業で雇われている立場とは別に、副業では対象になりえます。ここで言う「従業員」は、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用が見込まれる労働者を指します。短期のアルバイトや、同居の親族のみの場合は含まれません(Q&Aより)。

一方で、名目は業務委託でも、実態が労働基準法上の「労働者」と判断される場合は、労働関係の法令が適用され、この法律の対象外になります。また、消費者との取引や、単なる売買は対象外です。

出す側:業務委託事業者と特定業務委託事業者

発注する側は、2段階に分かれます。この区別が、後述する義務の適用範囲を決めます。

呼び方誰か
業務委託事業者フリーランスに業務を委託する事業者すべて(法人・個人を問わず、フリーランス同士の取引も含む)
特定業務委託事業者業務委託事業者のうち、従業員を使用する個人、または役員が2人以上いる、もしくは従業員を使用する法人

相手が「従業員のいる会社」であれば、ほぼ特定業務委託事業者にあたります。逆に、相手もフリーランス(従業員なしの個人)の場合は、業務委託事業者にはなりますが、特定業務委託事業者にはならない、という整理です。

対象になる「業務委託」

物品の製造・加工、情報成果物の作成(デザイン、文章、プログラムなど)、役務の提供(撮影、翻訳、コンサルなど)を、仕様や内容を指定して委託する取引が対象です。業種は限定されません。他方、発注者が仲介するだけの取引は、再委託や実質的な委託でない限り、対象外とされています。

発注者の義務:明示・60日ルール・禁止行為・就業環境

義務1:取引条件の明示

最も基本的な義務は、業務を委託したら直ちに、取引条件を書面または電磁的方法で明示することです。この義務は、特定業務委託事業者に限らず、業務委託事業者すべてが対象で、取引期間の長さの条件もありません。口頭だけは認められません。

パンフレットが示す明示事項は次のとおりです。

  • 当事者の名称(ニックネームでも識別できればよい)
  • 業務委託をした日
  • 給付の内容(品目、数量、規格、仕様など)
  • 給付を受領する日、または役務を提供する日
  • 受領・提供の場所
  • 検査をする場合は、その完了日
  • 報酬の額と支払期日(算定方法による記載も可)
  • 金銭以外で支払う場合は、その支払方法

電子メールやSNSのメッセージ、チャットでの明示も認められています。ただし、メールで明示された場合でも、フリーランス側から書面を求めれば、遅滞なく交付する必要があります(保護に支障がない場合を除く)。内容が未定の事項は、未定の理由と決定予定日を示し、決まったら直ちに明示し直します。

実務では、「メールに金額だけ書いてある」「納期が曖昧」というケースが多いです。上の項目が抜けていたら、発注者に追記を依頼できます。確認項目の整理には、契約条件チェックリストが使えます。

義務2:報酬の支払期日は受領から60日以内

特定業務委託事業者は、フリーランスの給付を受領した日から起算して60日以内の、できる限り短い期間内に報酬の支払期日を定め、その日までに支払う必要があります。

パンフレットとQ&Aで確認できるポイントは次のとおりです。

  • 具体的な日を特定する:「○日以内」「○日まで」といった幅のある書き方は認められません。
  • 月締め翌月払いは可能:ただし、受領から60日以内に収まるよう設定する必要があります。Q&Aでは、月単位の締め支払いは、実務上「受領から2か月以内」に収まるものとして扱われています。
  • 数え方:受領した日を1日目として数えます。やり直しが必要な場合は、修正後の納品物を受領した日から数え直します。
  • 定めがない場合のみなし規定:支払期日を定めなかったときは受領日、60日を超えて定めたときは受領から60日を経過した日が、支払期日とみなされます。
  • 再委託の例外:元の発注者から受けた仕事をフリーランスに再委託する場合は、元の発注者の支払期日から30日以内で定めることができます。ただし、再委託であること、元の発注者の名称、元の支払期日を明示する必要があります。

注意したいのは、従来は即時払いだった取引で、「60日まで認められるから」と支払いを遅らせるのは問題とされている点です(Q&A)。また、振込手数料を報酬から差し引くことは、フリーランスが同意していても、不当な減額に当たるとされています。

実際の入金日の見通しは、期限計算ツールで日付を確認し、資金繰りツールで月ごとの残高に落とし込むと、入金の遅れで困る場面を減らせます。

義務3:禁止行為(1か月以上の業務委託)

特定業務委託事業者には、次の7つの行為が禁止されています。対象は、業務委託の期間が1か月以上の取引です。フリーランスが同意していても、発注者に違法の認識がなくても、違反になります。

禁止行為内容
受領拒否責任がないのに、納品物の受け取りを拒む(一方的な発注取り消し、納期の延期を含む)
報酬の減額決めた報酬を、名目を問わず後から減らす(協力金、手数料の天引きを含む)
返品責任がないのに、受け取った物を引き取らせる
買いたたき通常の対価に比べて著しく低い報酬を、不当に定める
購入・利用強制正当な理由なく、指定の物やサービスを買わせる
不当な経済上の利益の提供要請報酬とは別に、金銭や労務を無償で提供させる
不当な給付内容の変更・やり直し責任がないのに、内容の変更や無償のやり直しをさせる

たとえば、「修正は何度でも無料で」という要望が、契約で決めた範囲を超えて続くなら、7番目に当たる可能性があります。ただし、買いたたきのように「通常の対価と比べて著しく低いか」は、協議の有無や相場との乖離などから総合的に判断されるため、一概には言えません。判断に迷う場合は、相談窓口に具体的な事情を伝えてください。

義務4:就業環境の整備(ハラスメント・育児介護・中途解除)

お金の話以外にも、特定業務委託事業者には次の義務があります。

ハラスメント対策の体制整備(第14条)

発注事業者は、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメントによってフリーランスの就業環境が害されないよう、方針の明確化と周知、相談窓口の整備、事後の迅速で適切な対応などの措置を講じる必要があります。相談したことを理由にした不利益な取り扱いも禁止されています。この義務には、取引期間の長さの条件はありません。

特設ページでは、顧客などからの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)についても、必要に応じて適切に対応するよう努めることが望ましいとされています。

育児・介護等との両立への配慮(第13条)

6か月以上の業務委託では、フリーランスから妊娠・出産・育児・介護を理由とする申し出があった場合、必要な配慮をしなければなりません(6か月未満は努力義務)。申し出を理由に契約を解除したり、報酬を減らしたりすることは禁止されています。

中途解除等の事前予告・理由開示(第16条)

6か月以上の業務委託で、発注者が契約を解除したり更新しなかったりする場合は、原則として、解除日や契約満了日の30日前までに予告する必要があります。フリーランスから理由を求められたときは、遅滞なく開示します。災害などでやむを得ない場合や、フリーランスの責めに帰すべき事由がある場合などは、例外とされています。

募集情報の的確な表示(第12条)

広告などでフリーランスを募集する場合、虚偽や誤解を生じさせる表示をしてはなりません。厚生労働省のページでは、氏名(名称)、住所、連絡先、業務の内容、業務に従事する場所、報酬の6項目を欠く募集は、誤解を生じさせる表示として扱われるとされています。

義務の適用範囲と、下請法改正(取適法)との関係

適用範囲の一覧

ここまでの内容を、誰が・どの取引期間で対象になるかという観点で整理します(公正取引委員会のパンフレットにもとづく)。

義務対象となる発注者取引期間の条件
取引条件の明示(第3条)業務委託事業者(すべて)なし
募集情報の的確な表示(第12条)業務委託事業者(すべて)なし
報酬の支払期日(第4条)特定業務委託事業者なし
ハラスメント対策(第14条)特定業務委託事業者なし
禁止行為(第5条)特定業務委託事業者1か月以上
育児・介護等への配慮(第13条)特定業務委託事業者6か月以上
中途解除等の予告(第16条)特定業務委託事業者6か月以上

自分の取引に当てはめるには、まず「相手は従業員を使っているか、役員は2人以上か」を確認し、次に「取引の期間はどれくらいか」を見ます。相手の従業員の有無は、発注時に確認するよう公正取引委員会が推奨していますが、外から見えにくいこともあります。わからないときは、遠慮なく発注者に聞いて構いません。

取適法との関係

混同しやすい点として、下請法(下請代金支払遅延等防止法)が、2026年1月1日から通称「取適法(とりてきほう)」(中小受託取引適正化法)に改正されました。公正取引委員会のリーフレットによると、協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払の禁止、適用基準への従業員数基準の追加、特定運送委託の追加などが主な改正点です。

取適法は、フリーランス法とは別の法律で、発注者と受注者の資本金や従業員数などの要件で適用の有無が決まります。同じ取引が両方の対象になりうるかなど、2つの法律の関係の詳細は、今回確認した公式資料の範囲では確認できませんでした。個別の判断は、公正取引委員会や相談窓口に確認してください。

違反されたとき:相談先と申出の方法

発注者にフリーランス法違反と思われる行為があった場合の窓口は、内容によって分かれます。

相談したい内容窓口
契約上・仕事上のトラブル全般(弁護士に無料相談)フリーランス・トラブル110番
取引の適正化(明示、支払期日、禁止行為など)公正取引委員会、中小企業庁
就業環境の整備(ハラスメント、募集情報など)都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)

フリーランス・トラブル110番

厚生労働省から第二東京弁護士会が受託して運営する窓口で、公式サイトによると、相談は無料です。電話は0120-532-110、受付は平日9時30分から16時30分です。メール相談とWeb相談(予約制)もあります。匿名で相談でき、相手に連絡がいくこともありません。和解あっせん(無料)や、行政機関への申出の際のアドバイスも受けられます。

一方、相談担当の弁護士が代理人になったり、相手と直接交渉したりすることはできません。代理人が必要な場合は、弁護士会の法律相談センターなどを案内されます。

行政への申出

フリーランスは、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省に、違反の疑いを申し出ることができます。行政は報告徴収や立入検査を行い、指導・助言、勧告、命令、公表といった措置を取ります。命令に違反した場合は、50万円以下の罰金の対象です。行政機関に申し出たことを理由とする不利益な取り扱い(取引の打ち切りなど)は禁止されています。なお、行政への申出は、自分の報酬を取り立ててくれる手続ではありません。未払い報酬の回収は、別途の対応が必要です。その流れは、報酬の未払い・支払い遅延への対応で解説しています。

フリーランス側が今日からできる備え

  • 受注前に条件を文面で確認する:上記の明示事項がそろっているか見ます。足りなければ、メールで質問して回答を残します。文面は取引メッセージ文面ジェネレーターで作れます。
  • 支払期日を日付で確認する:「納品後60日以内」ではなく、具体的な日付になっているかを見ます。
  • やり取りを残す:メール、チャット、発注書、納品記録、請求書は保存します。トラブルのとき、最大の材料になります。
  • 追加作業は書面で合意する:契約範囲外の修正は、費用と期限を決めてから対応します。
  • 困ったら早めに相談する:関係が悪くなる前に、匿名でもできる窓口に状況を話すだけで、見通しが立つことがあります。

この記事の限界と確認しておくべき点

  • この記事は、2026年10月8日時点で公正取引委員会・厚生労働省・フリーランス・トラブル110番の公開ページを確認した内容にもとづく一般的な解説で、法的助言ではありません。個別の取引に法が適用されるかどうかは、事情によって変わります。
  • 公正取引委員会の特設ページには、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が令和8年1月1日に改定されたとの記載があります。改定内容の詳細は確認できていないため、公式のガイドラインを見てください。
  • 取適法とフリーランス法の関係、罰金・過料の金額の全体像(命令違反は50万円以下の罰金という点のみ確認)は、本記事では扱いきれていません。
  • 相談窓口の電話番号や受付時間は変更されることがあります。利用前に公式サイトで確認してください。

まとめ:まず何をするか

最初にやることは3つです。第一に、自分が「従業員を使わない個人(または1人会社)」で、相手が従業員のいる会社かどうかを確認すること。第二に、取引条件と支払期日が文面で明示されているかを見ること。第三に、問題があれば証拠を残したうえで、フリーランス・トラブル110番などに相談することです。

報酬は受領から60日以内、取引条件は書面かメールで、禁止行為は1か月以上の取引から、というのが基本の骨組みです。新法は、フリーランスが「言いにくい」ことを、法律の言葉で言える土台になります。条件確認や連絡の文面づくりには、本サイトのチェックリストと文面ツールも活用してください。

本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の税務・法律相談ではありません。制度は改正されることがあるため、実際の判断は国税庁などの公式情報や、税理士などの専門家にご確認ください。