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家族を事業に巻き込むとき:青色事業専従者給与・事業専従者控除と家計の分け方

結論から言うと、家族に仕事を手伝ってもらうなら、青色申告者の「青色事業専従者給与」が代表的な方法です。届出を期限までに出し、労務の対価として相当な額を実際に払えば、その給与を必要経費にできます。ただし、扶養や社会保険への影響があり、「得になる」とは限りません。この記事では、制度の要件、数字の例、注意点、家計と事業の分け方を整理します。

公開:2026-10-14|最終確認:2026-10-14|約5300字

家族に手伝ってもらう3つの形

個人事業は、1人で運営するのが基本ですが、配偶者や親、子が手伝うことがあります。税の扱いは、手伝い方によって違います。大きく分けると、次の3つです。

形内容税の扱い
青色事業専従者給与青色申告者が、生計を一にする家族に給与を払う届出が必要。払った給与は必要経費になる
事業専従者控除(白色申告)白色申告者の場合の控除配偶者は最高86万円、その他の親族は50万円(いずれも上限。利益に応じた制限あり)
家族への外注・アルバイト生計が別の家族に、仕事を頼んで報酬を払う外注費または給与として経費にできる場合がある

家族に払うお金を、何の届出もなく経費にすることはできません。「生計を一にする家族に払ったお金」は、原則として必要経費に算入できないためです。上の制度を使うには、要件を満たし、手続きをする必要があります。

青色事業専従者給与の要件

国税庁の案内に基づく要件は、次のとおりです。すべてを満たす必要があります。

専従者になれる人

  • 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
  • その年の12月31日時点で15歳以上であること。
  • その年を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事していること(一定の場合は、事業に従事できる期間の2分の1を超える期間)。

「専ら従事」とされるため、他に本業の仕事がある人や、昼間の学校に通っている学生は、原則として当てはまりにくいと考えられています。判断は、実態で行われるため、迷う場合は税務署で確認します。

給与の要件

  • 届出書に記載した方法・範囲内で支払うこと。
  • 労務の対価として相当な金額であること。過大な部分は、必要経費になりません。

「相当な金額」は、仕事の内容、勤務時間、同業の同じような仕事の給与などで判断されます。実態より高い給与は、否認されるおそれがあります。

届出の期限

青色事業専従者給与を必要経費にするには、「青色事業専従者給与に関する届出書」を、税務署に提出します。期限は次のとおりです(国税庁)。

場面期限
通常(給与を必要経費にしようとする年から)その年の3月15日まで
その年の1月16日以後に開業した、または新たに専従者がいることになった場合その日から2か月以内
専従者の増員や給与の増額など、届出の内容を変える場合変更届出書を遅滞なく

届出書には、専従者の氏名、続柄、年齢、仕事の内容、勤務時間、給与の金額と支払の方法などを記載します。届出が間に合わなかった年は、その年の給与を必要経費にできません。来年に向けて、早めに出しておくのが安全です。なお、青色申告そのものの承認が前提です。承認の手続きは、青色申告の始め方を参照してください。

白色申告の事業専従者控除

白色申告の場合は、専従者に払った給与を経費にはできませんが、代わりに「事業専従者控除」が使えます。控除額は、次のいずれか低い額です(国税庁)。

  • 配偶者は86万円、配偶者以外の親族は1人につき50万円。
  • 控除前の事業所得等の金額を、専従者の数に1を加えた数で割った金額。

専従者の要件は、青色の場合と同じです。実際に給与を払っていなくても、控除は受けられますが、金額は限られています。家族の貢献を実態に合わせて反映できるのは、青色事業専従者給与のほうです。

数字で見る:配偶者に年120万円払うと

売上700万円、経費100万円(利益600万円)、青色申告65万円控除の個人事業主が、配偶者に専従者給与として年120万円を払うケースを、当サイトのツールの前提で計算しました(令和8年分の概算)。

専従者給与なし年120万円を払う
本人の事業の利益600万円480万円
本人の所得税約36.2万円約15.2万円
本人の住民税約42.1万円約31.3万円
配偶者の所得税・住民税—約0.9万円(住民税のみ)
世帯の所得税・住民税の合計約78.4万円約47.4万円

この例では、世帯の所得税・住民税の合計が、年約31万円減ります。配偶者の給与が、給与所得控除(最低保障74万円)と基礎控除の範囲に収まり、ほとんど課税されないためです。

差し引いて考えたい点:専従者給与を受ける人は、同一生計配偶者や扶養親族になれません。このため、これまで配偶者控除(所得税38万円、住民税33万円)を使っていた場合、その節税が消えます。実際の差は、その分、数万円から10万円程度縮みます。加えて、国民健康保険料の計算や、配偶者の勤務先の扶養の扱いも変わるため、世帯全体で比べてください。

扶養・社会保険への影響

  • 税の扶養:専従者給与を受ける人は、配偶者控除・扶養控除の対象になれません。
  • 健康保険の扶養:配偶者が会社員など、別の人の健康保険の被扶養者になっている場合、専従者給与の額によっては、扶養の基準(年収130万円未満など)を超えて、扶養から外れる可能性があります。外れると、国民健康保険・国民年金の保険料を自分で払うことになります。給与の額を決めるときは、扶養を外れない範囲か、外れても得かを、計算して決めます。
  • 国民健康保険料:専従者給与を払うと、本人の所得が下がり、本人の保険料は下がります。配偶者に給与が発生すれば、配偶者自身の保険料にも影響します。世帯全体で、増減を確認します。

給与の払い方と記録

  • 実際に払う:口座振込など、記録が残る方法で、毎月払います。形だけで払っていない場合は、否認されます。
  • 給与明細と賃金台帳:金額、勤務日・時間の記録を残します。
  • 源泉徴収:給与が一定額を超える場合は、源泉所得税を天引きして納付する必要があります。金額の基準や納付方法は、税務署の案内で確認します。
  • 届出の額と実際の額:届出書の範囲内で払います。範囲を超える場合は、変更届出書を出します。
  • 年末調整:給与を払った場合は、年末調整や、法定調書の手続きがあります。

実態として、専従者がどんな仕事をしているかを、記録にしておくことも大切です。たとえば、経理、事務、発送、顧客対応、制作補助などです。作業日報を簡単に付けておくと、税務調査の際に説明がしやすくなります。

給与の金額をどう決めるか

「相当な金額」を決める一番の方法は、仕事の内容と時間から、時給や月給を逆算することです。たとえば、週20時間、事務・経理・発送の手伝いをする配偶者に、時給1,200円で月80時間分を払うなら、月96,000円、年115.2万円です。時給は、地域の最低賃金や、同じ仕事をほかの人に頼んだ場合の相場が参考になります。

金額を決める手順は、次のとおりです。

  1. 手伝ってもらう仕事を書き出し、月あたりの時間を見積もる。
  2. 仕事の内容に近いパート・アルバイトの時給を、求人などで調べる。
  3. 時給×時間で月額を出し、年額にする。
  4. 扶養や社会保険、税の影響を計算して、金額を調整する。
  5. 届出書に、月額と、賞与を払う場合はその時期・金額を書く。

届出書に書いた額より多く払うと、超えた部分は経費になりません。余裕を持った金額で届け出ておき、実際に払う額を、その範囲内に収めると安全です。

ケース別に考える

配偶者が会社員で、健康保険の扶養に入っている場合

専従者給与が年130万円(基準は保険者により異なる)に近づくと、扶養から外れる可能性があります。外れたときの国民健康保険料と国民年金(令和8年度は月17,920円)の負担は、年間で数十万円になります。給与を増やして税が減る効果と、保険料が増える負担を比べて、金額を決めます。

配偶者が国民健康保険・国民年金に入っている場合

配偶者の保険はそのままなので、扶養の問題は出にくいです。専従者給与による世帯の税の減少が、そのまま効きやすいケースです。ただし、配偶者控除が使えなくなる点は、先に見たとおりです。

子どもが手伝う場合

子どもが15歳以上で、生計を一にしていれば、専従者になれる可能性があります。ただし、学校に通っている間は、専ら従事しているとは認められにくいため、実態をよく確認します。成人した子が同居していて、働き手として事業に従事しているなら、要件を満たすことがあります。一方、子どもの手伝いを税のために形だけ作るのは避けてください。

親が手伝う場合

親が年金を受け取りながら手伝う場合、専従者給与を払うと、親の税や社会保険、年金の扱いに影響が出ます。親の側の手続きや負担も確認が必要です。

届出書の書き方のポイント

「青色事業専従者給与に関する届出書」には、次のような項目を書きます。記入するときは、実態と矛盾しないことが大切です。

  • 専従者の氏名・続柄・年齢:生年月日や、本人との関係を正確に。
  • 仕事の内容・従事の程度:経理、事務、制作補助、顧客対応など、具体的に。従事する時間帯や日数も書きます。
  • 資格の有無:仕事に関係する資格があれば。
  • 給与の金額と支給の方法:月額、支給日、賞与の時期と金額。
  • 昇給の基準:給与を上げる場合の基準があれば。

実際に出す前に、この内容で本当に払えるか、1年間の資金繰りも確認します。専従者給与は、事業が赤字でも払う義務がある固定的な支出です。売上が減った月でも、払えるかを確かめてください。

家計と事業を分ける

家族が関わる事業では、家計と事業のお金が混ざりやすくなります。次の工夫で、分けます。

  • 事業用の口座とカード:家族の口座とは別に、事業用を作る。
  • 自宅を使っている場合は家事按分:家賃、光熱費、通信費のうち、事業に使う割合だけを経費にする。家事按分ツールで整理できます。
  • 生活費の引き出しは「事業主貸」:事業のお金から生活費を出すときは、帳簿に記録する。
  • 家族の名義の契約:事業で使う契約(携帯電話、インターネット、車)が家族の名義の場合、経費にできるかの判断が複雑になります。事業名義にするか、按分の根拠を残します。

家族への外注という選択

生計を別にしている家族(別居の親、成人した子など)に、仕事を頼む場合は、外注費として払う方法があります。専従者給与の要件(生計を一にする、6か月を超える従事など)は求められませんが、通常の取引として実態があることが前提です。契約書か発注の書面を作り、金額は相場に合わせ、請求書を受け取って払います。相手の側にも所得として、税や社会保険の影響があります。インボイスの扱いなどは、インボイスの運用の記事を参照してください。

家族とのトラブルを避けるために

家族と一緒に働くときは、金銭と役割をあいまいにしないことが、関係を守る基本です。

  • 役割と報酬を、文書に残す:誰が何をどのくらいやり、いくら払うのかを、メモ1枚でも書面にする。
  • 無償の協力を当然とみなさない:感謝を、金額や休みの形で示す。
  • 意思決定のルール:事業の方針や大きな支出は、誰が決めるのかを共有する。
  • 万一のときの準備:本人が働けなくなったとき、家族が取引先や口座の手続きをできるよう、情報を共有しておく。病気・ケガで働けなくなったときも参照してください。
  • 関係が変わる場合の想定:離婚や別居で、事業の資産や口座の名義が問題になることがあります。名義と帳簿は、はっきり分けておきます。

よくある質問

専従者給与は、いくらまでなら認められますか?

決まった上限額はありません。仕事の内容、時間、同業の水準から見て「労務の対価として相当」な額であれば認められ、過大な部分だけが経費になりません。実態に合った額にしておくことが一番です。

届出を出し忘れました。今年の分はどうなりますか?

期限に間に合わなかった年は、その年の専従者給与を必要経費にできません。来年分から使えるよう、すぐに届出書を出します。白色申告なら事業専従者控除は使えますが、青色申告者は使えません。

専従者給与に、賞与や退職金も払えますか?

賞与は、届出書に支給の時期と金額を書いていれば、その範囲内で払えます。退職金には別の扱いがあり、条件もあるため、税務署や税理士に確認してください。

確定申告での記載のポイント

青色事業専従者給与を払った年は、確定申告書(青色申告決算書を含む)に、専従者の氏名、続柄、従事月数、給与の額を記載します。給与は、決算書の「専従者給与」の欄に入れ、経費として計上します。届出書の内容(金額、支給方法)と、実際の支払いが合っているかを、申告前に確認します。帳簿には、毎月の支払いの記録が必要です。支払った給与について、源泉徴収の義務がある場合の納付、年末調整、給与支払報告書の提出も、忘れないようにします。

家族が複数いる場合は、1人ひとりの役割と給与を、別々に決めます。全員を同じ金額にするのではなく、仕事の内容と時間に応じた額にします。

この記事の限界・注意点

  • 制度は改正されます。届出の期限や控除の額は、国税庁の最新の案内で確認してください。
  • 数字は当サイトのツールによる概算です。配偶者控除、配偶者の勤務先の扶養、国民健康保険料の実際の額で、結果は変わります。
  • 給与が相当な額かどうかは、実態で判断されます。個別の判断は、税務署や税理士に相談してください。
  • 不動産所得など、事業と認められない所得の場合は、扱いが異なります。

本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の税務・法律相談ではありません。制度は改正されることがあるため、実際の判断は国税庁などの公式情報や、税理士などの専門家にご確認ください。