家族を事業に巻き込むとき:青色事業専従者給与・事業専従者控除と家計の分け方
結論から言うと、家族に仕事を手伝ってもらうなら、青色申告者の「青色事業専従者給与」が代表的な方法です。届出を期限までに出し、労務の対価として相当な額を実際に払えば、その給与を必要経費にできます。ただし、扶養や社会保険への影響があり、「得になる」とは限りません。この記事では、制度の要件、数字の例、注意点、家計と事業の分け方を整理します。
家族に手伝ってもらう3つの形
個人事業は、1人で運営するのが基本ですが、配偶者や親、子が手伝うことがあります。税の扱いは、手伝い方によって違います。大きく分けると、次の3つです。
| 形 | 内容 | 税の扱い |
|---|---|---|
| 青色事業専従者給与 | 青色申告者が、生計を一にする家族に給与を払う | 届出が必要。払った給与は必要経費になる |
| 事業専従者控除(白色申告) | 白色申告者の場合の控除 | 配偶者は最高86万円、その他の親族は50万円(いずれも上限。利益に応じた制限あり) |
| 家族への外注・アルバイト | 生計が別の家族に、仕事を頼んで報酬を払う | 外注費または給与として経費にできる場合がある |
家族に払うお金を、何の届出もなく経費にすることはできません。「生計を一にする家族に払ったお金」は、原則として必要経費に算入できないためです。上の制度を使うには、要件を満たし、手続きをする必要があります。
青色事業専従者給与の要件
国税庁の案内に基づく要件は、次のとおりです。すべてを満たす必要があります。
専従者になれる人
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
- その年の12月31日時点で15歳以上であること。
- その年を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事していること(一定の場合は、事業に従事できる期間の2分の1を超える期間)。
「専ら従事」とされるため、他に本業の仕事がある人や、昼間の学校に通っている学生は、原則として当てはまりにくいと考えられています。判断は、実態で行われるため、迷う場合は税務署で確認します。
給与の要件
- 届出書に記載した方法・範囲内で支払うこと。
- 労務の対価として相当な金額であること。過大な部分は、必要経費になりません。
「相当な金額」は、仕事の内容、勤務時間、同業の同じような仕事の給与などで判断されます。実態より高い給与は、否認されるおそれがあります。
届出の期限
青色事業専従者給与を必要経費にするには、「青色事業専従者給与に関する届出書」を、税務署に提出します。期限は次のとおりです(国税庁)。
| 場面 | 期限 |
|---|---|
| 通常(給与を必要経費にしようとする年から) | その年の3月15日まで |
| その年の1月16日以後に開業した、または新たに専従者がいることになった場合 | その日から2か月以内 |
| 専従者の増員や給与の増額など、届出の内容を変える場合 | 変更届出書を遅滞なく |
届出書には、専従者の氏名、続柄、年齢、仕事の内容、勤務時間、給与の金額と支払の方法などを記載します。届出が間に合わなかった年は、その年の給与を必要経費にできません。来年に向けて、早めに出しておくのが安全です。なお、青色申告そのものの承認が前提です。承認の手続きは、青色申告の始め方を参照してください。
白色申告の事業専従者控除
白色申告の場合は、専従者に払った給与を経費にはできませんが、代わりに「事業専従者控除」が使えます。控除額は、次のいずれか低い額です(国税庁)。
- 配偶者は86万円、配偶者以外の親族は1人につき50万円。
- 控除前の事業所得等の金額を、専従者の数に1を加えた数で割った金額。
専従者の要件は、青色の場合と同じです。実際に給与を払っていなくても、控除は受けられますが、金額は限られています。家族の貢献を実態に合わせて反映できるのは、青色事業専従者給与のほうです。
数字で見る:配偶者に年120万円払うと
売上700万円、経費100万円(利益600万円)、青色申告65万円控除の個人事業主が、配偶者に専従者給与として年120万円を払うケースを、当サイトのツールの前提で計算しました(令和8年分の概算)。
| 専従者給与なし | 年120万円を払う | |
|---|---|---|
| 本人の事業の利益 | 600万円 | 480万円 |
| 本人の所得税 | 約36.2万円 | 約15.2万円 |
| 本人の住民税 | 約42.1万円 | 約31.3万円 |
| 配偶者の所得税・住民税 | — | 約0.9万円(住民税のみ) |
| 世帯の所得税・住民税の合計 | 約78.4万円 | 約47.4万円 |
この例では、世帯の所得税・住民税の合計が、年約31万円減ります。配偶者の給与が、給与所得控除(最低保障74万円)と基礎控除の範囲に収まり、ほとんど課税されないためです。
差し引いて考えたい点:専従者給与を受ける人は、同一生計配偶者や扶養親族になれません。このため、これまで配偶者控除(所得税38万円、住民税33万円)を使っていた場合、その節税が消えます。実際の差は、その分、数万円から10万円程度縮みます。加えて、国民健康保険料の計算や、配偶者の勤務先の扶養の扱いも変わるため、世帯全体で比べてください。
扶養・社会保険への影響
- 税の扶養:専従者給与を受ける人は、配偶者控除・扶養控除の対象になれません。
- 健康保険の扶養:配偶者が会社員など、別の人の健康保険の被扶養者になっている場合、専従者給与の額によっては、扶養の基準(年収130万円未満など)を超えて、扶養から外れる可能性があります。外れると、国民健康保険・国民年金の保険料を自分で払うことになります。給与の額を決めるときは、扶養を外れない範囲か、外れても得かを、計算して決めます。
- 国民健康保険料:専従者給与を払うと、本人の所得が下がり、本人の保険料は下がります。配偶者に給与が発生すれば、配偶者自身の保険料にも影響します。世帯全体で、増減を確認します。
給与の払い方と記録
- 実際に払う:口座振込など、記録が残る方法で、毎月払います。形だけで払っていない場合は、否認されます。
- 給与明細と賃金台帳:金額、勤務日・時間の記録を残します。
- 源泉徴収:給与が一定額を超える場合は、源泉所得税を天引きして納付する必要があります。金額の基準や納付方法は、税務署の案内で確認します。
- 届出の額と実際の額:届出書の範囲内で払います。範囲を超える場合は、変更届出書を出します。
- 年末調整:給与を払った場合は、年末調整や、法定調書の手続きがあります。
実態として、専従者がどんな仕事をしているかを、記録にしておくことも大切です。たとえば、経理、事務、発送、顧客対応、制作補助などです。作業日報を簡単に付けておくと、税務調査の際に説明がしやすくなります。
給与の金額をどう決めるか
「相当な金額」を決める一番の方法は、仕事の内容と時間から、時給や月給を逆算することです。たとえば、週20時間、事務・経理・発送の手伝いをする配偶者に、時給1,200円で月80時間分を払うなら、月96,000円、年115.2万円です。時給は、地域の最低賃金や、同じ仕事をほかの人に頼んだ場合の相場が参考になります。
金額を決める手順は、次のとおりです。
- 手伝ってもらう仕事を書き出し、月あたりの時間を見積もる。
- 仕事の内容に近いパート・アルバイトの時給を、求人などで調べる。
- 時給×時間で月額を出し、年額にする。
- 扶養や社会保険、税の影響を計算して、金額を調整する。
- 届出書に、月額と、賞与を払う場合はその時期・金額を書く。
届出書に書いた額より多く払うと、超えた部分は経費になりません。余裕を持った金額で届け出ておき、実際に払う額を、その範囲内に収めると安全です。
ケース別に考える
配偶者が会社員で、健康保険の扶養に入っている場合
専従者給与が年130万円(基準は保険者により異なる)に近づくと、扶養から外れる可能性があります。外れたときの国民健康保険料と国民年金(令和8年度は月17,920円)の負担は、年間で数十万円になります。給与を増やして税が減る効果と、保険料が増える負担を比べて、金額を決めます。
配偶者が国民健康保険・国民年金に入っている場合
配偶者の保険はそのままなので、扶養の問題は出にくいです。専従者給与による世帯の税の減少が、そのまま効きやすいケースです。ただし、配偶者控除が使えなくなる点は、先に見たとおりです。
子どもが手伝う場合
子どもが15歳以上で、生計を一にしていれば、専従者になれる可能性があります。ただし、学校に通っている間は、専ら従事しているとは認められにくいため、実態をよく確認します。成人した子が同居していて、働き手として事業に従事しているなら、要件を満たすことがあります。一方、子どもの手伝いを税のために形だけ作るのは避けてください。
親が手伝う場合
親が年金を受け取りながら手伝う場合、専従者給与を払うと、親の税や社会保険、年金の扱いに影響が出ます。親の側の手続きや負担も確認が必要です。
届出書の書き方のポイント
「青色事業専従者給与に関する届出書」には、次のような項目を書きます。記入するときは、実態と矛盾しないことが大切です。
- 専従者の氏名・続柄・年齢:生年月日や、本人との関係を正確に。
- 仕事の内容・従事の程度:経理、事務、制作補助、顧客対応など、具体的に。従事する時間帯や日数も書きます。
- 資格の有無:仕事に関係する資格があれば。
- 給与の金額と支給の方法:月額、支給日、賞与の時期と金額。
- 昇給の基準:給与を上げる場合の基準があれば。
実際に出す前に、この内容で本当に払えるか、1年間の資金繰りも確認します。専従者給与は、事業が赤字でも払う義務がある固定的な支出です。売上が減った月でも、払えるかを確かめてください。
家計と事業を分ける
家族が関わる事業では、家計と事業のお金が混ざりやすくなります。次の工夫で、分けます。
- 事業用の口座とカード:家族の口座とは別に、事業用を作る。
- 自宅を使っている場合は家事按分:家賃、光熱費、通信費のうち、事業に使う割合だけを経費にする。家事按分ツールで整理できます。
- 生活費の引き出しは「事業主貸」:事業のお金から生活費を出すときは、帳簿に記録する。
- 家族の名義の契約:事業で使う契約(携帯電話、インターネット、車)が家族の名義の場合、経費にできるかの判断が複雑になります。事業名義にするか、按分の根拠を残します。
家族への外注という選択
生計を別にしている家族(別居の親、成人した子など)に、仕事を頼む場合は、外注費として払う方法があります。専従者給与の要件(生計を一にする、6か月を超える従事など)は求められませんが、通常の取引として実態があることが前提です。契約書か発注の書面を作り、金額は相場に合わせ、請求書を受け取って払います。相手の側にも所得として、税や社会保険の影響があります。インボイスの扱いなどは、インボイスの運用の記事を参照してください。
家族とのトラブルを避けるために
家族と一緒に働くときは、金銭と役割をあいまいにしないことが、関係を守る基本です。
- 役割と報酬を、文書に残す:誰が何をどのくらいやり、いくら払うのかを、メモ1枚でも書面にする。
- 無償の協力を当然とみなさない:感謝を、金額や休みの形で示す。
- 意思決定のルール:事業の方針や大きな支出は、誰が決めるのかを共有する。
- 万一のときの準備:本人が働けなくなったとき、家族が取引先や口座の手続きをできるよう、情報を共有しておく。病気・ケガで働けなくなったときも参照してください。
- 関係が変わる場合の想定:離婚や別居で、事業の資産や口座の名義が問題になることがあります。名義と帳簿は、はっきり分けておきます。
よくある質問
専従者給与は、いくらまでなら認められますか?
決まった上限額はありません。仕事の内容、時間、同業の水準から見て「労務の対価として相当」な額であれば認められ、過大な部分だけが経費になりません。実態に合った額にしておくことが一番です。
届出を出し忘れました。今年の分はどうなりますか?
期限に間に合わなかった年は、その年の専従者給与を必要経費にできません。来年分から使えるよう、すぐに届出書を出します。白色申告なら事業専従者控除は使えますが、青色申告者は使えません。
専従者給与に、賞与や退職金も払えますか?
賞与は、届出書に支給の時期と金額を書いていれば、その範囲内で払えます。退職金には別の扱いがあり、条件もあるため、税務署や税理士に確認してください。
確定申告での記載のポイント
青色事業専従者給与を払った年は、確定申告書(青色申告決算書を含む)に、専従者の氏名、続柄、従事月数、給与の額を記載します。給与は、決算書の「専従者給与」の欄に入れ、経費として計上します。届出書の内容(金額、支給方法)と、実際の支払いが合っているかを、申告前に確認します。帳簿には、毎月の支払いの記録が必要です。支払った給与について、源泉徴収の義務がある場合の納付、年末調整、給与支払報告書の提出も、忘れないようにします。
家族が複数いる場合は、1人ひとりの役割と給与を、別々に決めます。全員を同じ金額にするのではなく、仕事の内容と時間に応じた額にします。
この記事の限界・注意点
- 制度は改正されます。届出の期限や控除の額は、国税庁の最新の案内で確認してください。
- 数字は当サイトのツールによる概算です。配偶者控除、配偶者の勤務先の扶養、国民健康保険料の実際の額で、結果は変わります。
- 給与が相当な額かどうかは、実態で判断されます。個別の判断は、税務署や税理士に相談してください。
- 不動産所得など、事業と認められない所得の場合は、扱いが異なります。